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「学び直し」を考える

今年(2020年)夏の『労働研究雑誌』に本田由紀さん(東京大学教授)が日本の学び直しの課題について分析と提案をされていて、得るところ大でした。

 

それによると、日本は過去1年間に何らかの成人教育・訓練に参加した率が、OECDの中でも非常に低く、参加したケースでも自己負担部分では諸外国並みであるものの、勤務先負担の教育が非常に少ない。かつ高レベル層での学び直しへの参加が大変少ない、ということでした。

 

著者は日本の特徴として、初期教育でのスキル形成は非常に高いものの、学び直しは非常に低調であり、職場でも労働者の高いスキルや教育成果が活用できていない、と表現しています。

また、日本の学び直しの場が①勤め先での研修、②講習会、セミナーへの参加、③読書、といったパターンになっており、海外諸国のような社会人として大学、大学院で学び直すという機会が極めて少なく、もっとその重要性を考えるべきだと述べています。

同時に学び直しの拡大や促進を図るだけでなく、企業や役所では修了後それを生かす配置や人事など活用できる体制を作ることも求めています。

 

私も企業での長年の経験から、日本の大企業では往々にして最新の実務能力向上という面での教育が少ないのではないかと感じてきました。入社時やジュニア段階での教育は十分であるものの、その後の実務能力向上・育成の場が本人に任されすぎているように思います。

この傾向は社員のなかでもジェネラリストやホワイトカラーと呼ばれてきた層により強く見られるように感じ、これが結局は実務能力だけの問題でなく、キャリア自律やエンゲージメントを下げる見えない要因になっているのではないか、と考えています。

また、大学や大学院で学び直す機会を設けることは、仕事のテーマへの本質的な問題意識や価値の創造、視野の拡大という点からももっと活用すべきものと考えます。逆に100年人生時代のキャリアのマルチステージ化を考えた場合、従業員個人の側から先に、会社を離れて大学院などで学び直すのが当たり前の選択肢になってくるかもしれませんね。