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使わなくなった言葉(その1)

東京オリンピック、北京冬季オリンピックが半年あまりで連続するように終わりました。コロナ禍のため、一般市民からは隔離された遠い所で行われたオリンピックは、1964年の東京オリンピックを現実になった夢として経験した我々世代からはあまりにも寂しいものでした。

1964年の東京オリンピックのころ、私は小学生。実に57年の歳月が流れているのです。いつの間にそのような時の流れがあったのでしょう。昔語りなど老人のすることと思っていたその歳に自らがなっているようです。

そして気づかぬうちに世の中が変わっているということにも、気づきます。その一つが言葉です。自分の今話している言葉や単語を若い人たちが理解しているのだろうか、そのような心配をすることがあります。

そんな視点で、前の東京オリンピックがあったころ使っていた言葉、このごろ使わなくなったなぁ、聞かなくなったなぁという言葉を3つ取り上げてみました。

 

「せん」、「せんに」

私が小中学生時代を過ごしたのは渋谷区内ですが、子供たちの間でも良く使っていました。

「前に」、「ずっと前に」という意味で、とくに古い、相当前のことを言い現わす言葉でした。「あそこは、せんは風呂屋だったよな」「せんのやり方と違うよ」みたいな表現で話していたのです。

その由来はわかりませんが、「前(ぜん)」が「せん」に変わったのではないかと勝手に想像したりしています。

長い間耳にすることがなかったこの一語を、平成に入ったころ耳にしました。亡父の関係でお世話になった方を訪問した時のことです。場所は台東区の佐竹商店街の近くであったように思います。

当時八十前後の女性でしたが「ずっとせんにはこんなふうでなかったのですよ」というようなことをおっしゃっていて、聞いた瞬間に、わぁ懐かしいなぁ、と子供時代に戻ったような気がしました。その方もとうに亡くなられていることだと思いますが、下町で言葉は生きていたのでしょうか。

 

「ご不浄」

トイレの表現には今の時代でも洗面所、化粧室、レストルームなど数々あるが、「ご不浄」を全く聞くことがなくなってしまいました。

私が子供の頃はまだ結構使われていて、特に同級生の女の子たちは「ご不浄」を使っていたように記憶します。ネットで検索するとちゃんと出てきて、山の手言葉、女性言葉であるという説明もあり、渋谷区の女の子が使っていたのはその説明に合致します。

当時女子生徒たちだったご婦人は今もこの言葉を使っているのか、年がわかるので使わないようにしているのか、一度聞いてみたい気がします。

 

「すかす」

かっこつける、ちょっとキザな感じな行動や人物ということで、子供時代に友だち同士でよく使われていました。「すかしてるよな、」「あいつすかしやがって」のような言い回しだったと思います。

この言葉、辞書で調べると「きどる、すますの東京・神奈川方言」などと説明されていて東京弁のひとつらしいのです。簡単で使いやすい単語だと思いますが、あまり聞かれなくなったのはなぜなのでしょうか。